立川談志が弟子にしかけた激しい「無茶ぶり」、その真意
大事なことはすべて 立川談志に教わった第2回
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入門した最初の頃は、兄弟子の「師匠への接し方」を学ぶ期間でした。サラリーマン時代とは違って、過酷な環境で金のない苦痛を、雲の上の存在の師匠と直に接するといううれしさと新鮮さとで緩和させることでバランスを取るような日々でした。
ただ、偉大すぎる師匠です。彼我の差が歴然としすぎているゆえ、師匠から何か言われると、特に私の場合は極度の緊張、そして萎縮が走りました。極力「普通の55歳のおっさんだと思え」と自らに言い聞かせて振る舞うのですが、緊張の連続で、より師匠をイライラさせてしまうのです。
まして「昨晩書斎の机に出しておいたメモを出せ」というような前座にもわかりやすい言い方は絶対にしません。
「おい、アレ、出せ!」
そんな極端に簡略化した形で指示を出すのです。そのため話の前後が読めていないと、地獄が待っているのです。「アレ、出せ」と言われて、スコップやら殺虫剤を出し、何度、師匠を不快にさせたかわかりません。